福島地方裁判所 昭和28年(行)2号 判決
原告 吉田孝平 外八名
被告 堂島村選挙管理委員会
被告当事者参加人 堂島村議会
一、主 文
被告が昭和二十七年十二月三十日堂島村議会解散請求署名に関する原告等並びに加藤倉八ほか一名の異義申立に対してした決定のうち、
別表甲第二記載の八十三名に関する部分を取り消す。
原告等のその余の請求を棄却する。
本件参加の申出を却下する。
訴訟費用のうち、原告等と被告との間に生じた部分はこれを八分し、その一を原告等、その余を被告の負担とし、参加申出により生じた部分は当事者参加人代表者議長加藤倉八の負担とする。
二、事 実
原告等は「被告が昭和二十七年十二月三十日、堂島村議会解散請求者署名簿の署名に関する原告等並びに堂島村議会代表者議長加藤倉八ほか一名の異議申立に対してした決定のうち別表甲第一記載の百二名に関する部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告等は堂島村議会解散請求の代表者であるが、堂島村議会解散請求者署名簿に選挙権を有する者二千三百十名のうち、その三分の一をこえる九百五十九名の署名、印を得、昭和二十七年十月十二日右署名簿を被告に提出して右署名し印をおした者が選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めたところ、被告は右署名のうち七百七十三名の署名を有効、他の百八十六名の署名を無効と決定し、その旨の証明をした上、署名簿を関係人の縦覧に供した。そこで原告等並びに堂島村議会代表者議長加藤倉八ほか一名は縦覧期間内に被告に対し異議の申立をしたのであるが、被告は昭和二十七年十二月三十日右無効と決定した署名のうち二十一名について、原告等の申立を正当であると決定したけれども、その余の部分を棄却し、更に右有効と決定した署名のうち七十九名について右議会側の申立を正当と決定し、その証明を修正して、これを告示した。被告が無効署名であると認めた右署名のうち、別表甲第一記載の百二名についてこれをその理由ごとに区分すれば、第一記載の四十四名の分は本人の自署したものであるとすることができない。第二記載の二名の分は、その署名が何人であるか確認し難い。第三記載の一名の分はその押印が何人のものであるか判別できない。第四記載の四名の分は署名した月日の記載がもれている。第五記載のうち七百七十七番は署名者の年齢が事実に符合しないし、その余の二名の分は署名者の生年月日が明らかでない。第六記載のうち四百九十九番は署名者の住所の記載、四百七十五番は番地の記載がもれている。第七記載の四名の分は署名簿の有効無効の印欄に文字を記載し、印をおしてある。第八記載の五名の分は署名簿に張つた紙片にしている。第九記載の五名の分は署名収集の委任を受けていない者の収集にかかる。第十記載の一名の分は署名者が署名する資格を有しない。第十一記載の十三名の分は堂島村長の地方自治法施行令第九十一条の規定による告示があつた日以前の収集にかかる。第十二記載の九名の分は署名者がその署名の取消を申し立てた。第十三記載の三名の分は強迫に基く。第十四記載の一名の分は詐偽に基く。第十五記載の五名の分は署名者が署名簿に署名することの意味を弁別しないでした。第十六記載の一名の分は偽造である。となる。しかし右の各個の署名はいずれも次の理由により有効とすべきである。
第一記載の分はいずれも本人の自署である。
第二記載の分はいずれもその氏名が明白に認められるものである。
第三記載の分はその押印が署名者の印影であると明らかに認められるものである。
第四記載の分はいずれも署名年月日の記載があり、仮にその記載内容が不明であるとしても前後の署名者の記載によつて当該署名年月日を推測することができるから署名の年月日が不明であるということができない。
第五記載のうち七百七十七番については、仮に、その生年月日の記載が事実に符合しないものであるとしても、この事が署名を無効とする理由にはならない。また、四百三十九番、四百四十番はいずれも生年月日の記載がある。
第六記載のうち七百九十九番は住所の記載がある。
第七記載のうち四百三十九番、四百四十番を除き、その余のものは署名簿の有効、無効の印欄にいずれも訂正した旨の文字及び印の記載があるのであるが、かような違式は、署名者の意思を左右するような重大なかしでないから、署名を無効とする理由にならない。また、四百三十九番、四百四十番は、四百三十九番の署名のうち、名の記載が次番にまたがつているにすぎないものであるから違式な署名でない。
第八記載の分は、いずれも署名簿にはつた紙片に記載された署名であるが、署名簿に署名の当時書き損じたので紙片をはつてこれに署名したのであるから無効のものでない。
第九記載の分はいずれも権限ある者の収集にかかるものである。
第十記載の署名者は、被告が原告等の提出した署名簿を審査した当時の選挙人名簿に記載されている者である。
第十一記載の分は、いずれも堂島村長の地方自治法施行令第九十一条第二項の規定による告示があつた日以後において収集されたものである。
第十二記載の分は、いずれも原告等が署名簿を被告に提出した後に署名者が署名及び印の取消を被告に申し立てたものである。しかし地方自治法施行令第百条、第九十五条の規定によれば署名の取消の申立期間は議会解散請求代表者が署名簿を選挙管理委員会に提出するまでであるから、その後においてなされた右取消の申立は無効である。
第十三記載の分は、いずれも署名者の任意にしたものであつて、強迫に基いてなされたものでない。
第十四記載の分は、詐偽に基いてなされたものでない。
第十五記載の分は、仮に署名者が署名することの意味を弁別しないでしたものであるとしても、一旦任意に署名したものである以上、意味の不弁別を理由として取消の申立をすることができないというべきである。
第十六記載の分は、偽造のものでない。
以上のとおり右各個の署名はいずれも有効であり、先きに被告が有効であるとした前示七百十五名の署名にこれ等を加えれば、堂島村議会解散請求者署名簿の署名は選挙権を有する者の総数の三分の一以上に達することとなる。よつて原告等は被告の前示決定のうち別表甲第一記載部分の取消を求めるため本訴を提起した、と述べ、参加の申出に対し、本件参加の申出を却下するとの判決を求め、その理由として、原告の本訴請求は被告のした違法な行政処分の取消を求めるものであるが、行政訴訟においてはその本質上当事者参加は許されるべきでないから、本件参加の申出は不適法であると述べ、本案について、当事者参加人の請求を棄却するとの判決を求め、当事者参加人の参加の理由とする主張のうち、別表乙第一記載の花泉清ほか四十九名が本件署名簿に署名し印をおした者であること、同人等が、昭和二十六年十二月二十日確定した基本選挙人名簿に記載されていない者であることを認める。しかし地方自治法第七十六条第四項の規定により準用される同法第七十四条の二第一項の規定による選挙人名簿に記載された者とは、市町村の選挙管理委員会が署名簿を審査する当時選挙人名簿に記載された者を指称し、右選挙人名簿はいわゆる基本選挙人名簿であると補充選挙人名簿であるとを問わない趣旨である。そして右花泉清ほか四十一名は原告等が本件署名簿を被告に提出した当時の補充選挙人名簿(昭和二十七年九月二十八日確定)に記載されている者であるから同人等の署名は有効である。また議会解散請求が成立するための連署の法定数につき、算定の基礎となるべき選挙人名簿に記載されている者の総数は、村長が地方自治法施行令第九十一条第二項の規定による告示をした当時における選挙人名簿によるべきであつて、その後に調製され確定した選挙人名簿によるべきでない。本件解散請求について堂島村長が地方自治法施行令第九十一条第二項の規定による告示をしたのは昭和二十七年九月八日であり、その当時の選挙人名簿は昭和二十六年十二月二十日確定の基本選挙人名簿であるから、右解散請求が成立するに足りる法定数は同選挙人名簿に記載された者の総数である二千三百十名の三分の一以上である。かような次第であるから当事者参加人の主張は失当であると述べた(証拠省略)。
被告は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、原告等主張事実のうち、原告等が堂島村議会解散請求の代表者であること、原告等がその主張の日に九百五十九名の署名、印のある署名簿を被告に提出し、右九百五十九名が選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めたこと、被告が右署名簿を審査し、署名の効力を決定した結果が原告等主張のとおりであること、被告が右決定の結果につきその旨の証明をして関係人の縦覧に供したこと、右決定につき原告等並びに堂島村議会代表者議長加藤倉八ほか一名が被告に対し異議の申立をし、被告が昭和二十七年十二月三十日右無効と決定した署名のうち二十一名に関する分について原告等の申立を正当とし、その余の者に関する分については原告等の申立を棄却し、更に先きに有効と決定した署名のうち七十九名に関する分について議会側の申立を正当と決定し、右のとおりその証明を修正してこれを告示したこと、被告が無効署名と認めた総署名のうち別表甲第一記載の百二名に関する無効理由がそれぞれ原告等主張のとおりであること、原告等が署名簿に署名し、印をおすことを求めた当時選挙権を有する者の総数が二千三百十名であることはいずれもこれを認める。そして右百二名の分が無効である理由は、次のとおりである。
第一記載のうち二十四番、三百六十二番、五百四十二番、四百五十番は被告が署名簿を審査した際、署名者が本人の自署でないことを自認したものであり、百七番は百八番と、三百六十九番は三百七十番と、三百七十五番は三百七十四番と、六百四十二番は六百四十一番と、六百四十九番は六百二十六番と、六百六十七番は六百五十七番と、九百四十番は九百四十一番と、それぞれ同一筆跡の署名と認められるものであるから、各組についてそのうちの一名の分を無効、他の一名の分を有効と決定したのである。また、その余の署名も本人の自署でない。
第三記載の分は、その印影が署名者の認印であるか、ぼ印であるか判別できないものである。
第四記載のうち三百七番、八百三十三番は署名の月日の記載、三百九十六番は署名の日の記載がなく、六百八十四番は署名の月日の記載が不明であるから、署名の月日の記載があるものということができない。
第五記載のうち七百七十七番は、記載された年齢が署名者の戸籍簿、選挙人名簿の当該記載と相違するものである。四百三十九番は生年の記載があるのみで、月日の記載がなく、四百四十番は一の生年月日の記載のほか更に月日の記載がある。
第七記載のうち二百十四番、七百四十八番、七百五十二番、七百六十一番は署名簿の有効、無効の印欄に訂正した旨の文字及び印があり、四百三十九番は署名のうち氏の記載がある丈で名の記載がなく、四百四十番は一の氏の記載に二個の名の記載があるものである。従つて右六個の署名は地方自治法施行規則第十一条所定の様式に従わない署名である。
第八記載の分は、署名簿にはつた紙片にした署名で、署名簿自体にした署名でないから、地方自治法第七十六条第三項の規定により準用せられる同法第七十四条の三第一項第一号の法令に定める成規の手続によらない署名として無効である。仮にかような署名が署名簿にした署名であるとしても、第八記載の分は署名のある紙片と署名簿との間に、全然、またはその下段に、契印がない。
第九記載の分は、山口忠八の収集にかかるものであるが、同人は議会解散請求代表者である原告等から署名収集の委任を受けていない。
第十記載の分の署名者は、昭和二十六年十一月十二日堂島村議会議員の選挙区である堂島村の村外に転住した者であるから事実上署名する資格を有しない。
堂島村長が原告等に代表者証明書を交付した旨の告示をしたのは昭和二十七年九月八日であるから原告等は地方自治法施行令第百条、第九十二条第四項の規定により、右告示があつた日から選挙権を有する者に対し署名し、印をおすことを求めることができるわけである。しかるに第十一記載の分のうち四百二十七番、四百二十九番は同年九月二日、五百八十一番、五百八十二番、五百八十三番は同年九月四日、その余は同年九月七日といずれも右告示の日以前に署名及び印を収集されたものである。
第十二記載の分は、原告等が請求署名簿を被告に提出した後に署名者が被告に対し署名及び印の取消を申し立てたものであるが、右署名者が取消の意思を表示した以上、被告としてはその意思を尊重しなければならない筋合である。
第十三記載のうち四十四番は原告吉田孝平において、署名者が拒絶しているにかかわらず「何でもよいから書け」といつて書かせたものであり、八百二十三番は署名者が署名後直に署名を取り消したのにかかわらず、収集者が署名者の就寝の場所まで来て再び署名を求めたという事情にあるものであつて、右二個の署名はいずれも強制に基くものであるというべきである。
第二記載、第六記載のうち七百九十九番、第十四ないし第十六記載の各署名が無効であることは被告がこれ等を無効とした理由として原告が主張するとおりである。以上の次第であるから被告の決定は正当であり、違法の点は少しもない、と述べた(証拠省略)。
当事者参加人は「被告に対する原告等の請求を棄却する。訴訟費用のうち参加の申出によつて生じた部分は原告等及び被告の負担とする。」との判決を求め、参加の申出の理由として、当事者参加人は原告等がその解散を求める議会であるが、本件解散請求者署名簿の署名が法定数に達すれば、当然当事者参加人に対する解散請求が成立し、その賛否投票の結果、当事者参加人の存在が消滅することがある。従つて当事者参加人は原告等と被告との間の本件訴訟の結果によりその権利を害せられるものである。本件解散請求は選挙権を有する者の三分の一以上の連署を得ていないから成立しない。すなわち右法定数算定の基礎となるべき選挙権を有する者の総数は昭和二十六年十二月二十日確定した基本選挙人名簿記載の人員と、昭和二十七年九月二十八日確定した補充選挙人名簿記載の人員との合計二千四百五十一名である。しかるに本件解散請求者署名簿の署名は八百十七名であり、これに加うるに無効署名が多数あることは後述のとおりであるから、右法定数に達しないことは明らかである。仮に右補充選挙人名簿に記載された者が選挙権を有する者として加算されるべきでないものとしても、法定数算定の基礎となるべき選挙権を有する者に加えられない以上は、これ等の者が解散請求者署名簿に有効に署名する資格を有しないこととなるべき筋合である。しかるに本件解散請求者署名簿の署名のうち別表乙第二記載の花泉清ほか四十九名は、いずれも昭和二十七年九月二十八日確定した補充選挙人名簿に記載されている者であるから、本件解散請求者署名簿の総署名からこれを控除すると法定数に達しないこととなる、と述べたほか、別表甲第一記載の署名がいずれも無効であるとする主張につき、被告と同趣旨の事実を述べた(証拠省略)。
三、理 由
原告等が堂島村議会解散請求の代表者であつて、同村議会解散請求者署名簿に選挙権を有する者九百五十九名の署名、印を得て昭和二十七年十月十二日これを被告に提出して、同署名簿に署名し印をおした者がいずれも選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めたこと、被告が右署名簿を審査し、有効署名七百七十三個、無効署名百八十六個と決定し、その旨を証明して関係人の縦覧に供したこと、これにつき原告等並びに堂島村議会代表者議長加藤倉八ほか一名が被告に異議を申し立て、被告が昭和二十七年十二月三十日右無効と決定した署名のうち、二十一名について原告等の申立を正当とし、その余の部分については原告等の申立を棄却し、先きに有効と決定した署名のうち七十九名については議会側の申立を正当と決定し、右のとおりその証明を修正してこれを告示したこと、被告が無効署名と認めた総署名のうち別表甲第一記載の百二名に関する無効理由がいずれも原告主張のとおりであること、原告等が右署名簿に署名し印をおすことを求めた当時、選挙権を有する者の総数が二千三百十名であることは原被告間に争がない。
そこで、右百二個の分につき、原告等が違法理由として主張する第一ないし第十六の点について順次判断する。
第一。(別表甲第一記載の分。以下これにならう。)
(1) 百七番については証人高橋好美の証言、原告高橋幸光の本人尋問の結果により
(2) 百九十二番については証人山田リキイ、山田武の各証言により
(3) 百九十七番については証人大塚タツイ、山田武の各証言により
(4) 二百八番については証人安西ハル、山田武の各証言により
(5) 二百十八番については証人スズキハル、山田武の各証言により
(6) 二百八十四番については証人田場川房吉の証言、原告一ノ瀬新八本人尋問の結果により
(7) 二百八十六番については証人田場川リノの証言、原告一ノ瀬新八の本人尋問の結果により
(8) 三百二十三番については証人鵜川コウの証言、原告一ノ瀬新八の本人尋問の結果により
(9) 三百三十番については証人高橋チヨノの証言、原告一ノ瀬新八の本人尋問の結果により
(10) 三百五十七番については証人清水トミノ、加藤勇の各証言により
(11) 三百六十二番については証人加藤マサノ、加藤勇の各証言により
(12) 三百六十四番については証人菊地波子、加藤勇の各証言により
(13) 三百六十九番については証人小林貢、加藤勇の各証言により
(14) 三百七十五番については証人清水キミ、加藤勇の各証言により
(15) 三百八十番については証人小林常子、加藤勇の各証言により
(16) 三百八十九番については証人内山みゆき、加藤勇の各証言により
(17) 三百九十一番については証人小林タツ子、加藤勇の各証言により
(18) 三百九十三番については証人カトウシマ、加藤勇の各証言により
(19) 四百三十二番については証人大竹サト子の証言、原告高橋幸光の本人尋問の結果により
(20) 四百五十番については証人福原主税の証言により
(21) 四百七十六番については証人星野フクの証言、原告星野義水の本人尋問の結果により
(22) 四百九十七番については証人高橋清、佐藤勝江の各証言により
(23) 五百十八番については証人福王寺カツ子、佐藤勝江の各証言により
(24) 五百七十三番については証人佐藤勝江の証言により
(25) 五百九十五番については証人兼子庄治、高橋丈太郎の各証言により
(26) 六百八番については証人白川シマ、高橋丈太郎の各証言により
(27) 六百十八番については証人白川源吉、高橋丈太郎の各証言により
(28) 六百三十七番については証人鈴木二三江、佐藤勝江の各証言により
(29) 六百四十二番については証人名田文代、湯浅隆利の各証言により
(30) 六百五十四番については証人斎藤久吾、湯浅隆利の各証言により
(31) 六百六十七番については証人鈴木よし江、湯浅隆利の各証言により
(32) 六百八十九番については証人大塚マチ子の証言により
(33) 八百九番については証人武藤貞夫、加藤常三の各証言により
(34) 九百十八番については証人渡部キン、加藤豊八の各証言により
(35) 九百二十六番については証人加藤豊八の証言により
(36) 九百二十九番については証人関原芳子、大竹保の各証言により
(37) 九百五十番については証人稲垣ヒロ子、大竹保の各証言により
いずれも本人の自署であることが認められる。右(11)の認定に反する乙第一号証の二の記載は、証人加藤マサノの証言に照らして信用しない。また、乙第一号証の四の記載を以てしても、右(20)の認定を左右するに足りない。その他に以上の認定を動かすに足りる証拠がない。
次に右に認定したものの残余の分について考えるに、二十四番については、原告吉田孝平の本人尋問の結果のうち原告の主張にそう部分は成立に争のない乙第一号証の一の記載、証人遠藤ミドリの証言に照らして信用しない。五百四十二番については、証人佐藤勝江の証言のうち、原告の主張にそう部分は成立に争のない乙第一号証の三の記載に照らして信用しない。六百五十八番、六百六十九番については、証人湯浅隆利の証言のうち原告の主張にそう部分は証人皆川光雄、磯部一郎の各証言に照らして信用しない。そして右四個の署名につき、いずれも他にこれが自署であることを認めしめるに足りる証拠がない。二百七十番、六百四十九番、九百四十番についても同様これが自署であることを認めしめるに足りる証拠がない。従つて右七個の署名に関する原告等の主張は理由がない。
第二。
署名に誤字があつても、直にこれを無効とすべきではなく、署名簿の他の記載等と総合して当該署名が何人の表示であるかを推認できる限り、これを有効な署名と解するのが相当である。甲第十四号証によれば、七百五十五番の氏名欄の記載のうち第三字、第四字は明らかに「ハツ」と読むことができ、また第一字は「稲」と読むことができるが、第二字はと記載されてあること、その住所や生年月日の記載あること、その次行七百五十六番には同じ住所に稲垣伍八の署名があることが明らかであるから、は垣の誤字であろうと推測できるのみでなく、選挙人名簿をもつている被告は、右署名簿の稲ハツ、その住所、生年月日等によつて、は垣の誤字であつて、右署名は、稲垣ハツを表示したものと推認することができたはずである。従つて七百五十五番の署名は何人であるか確認できないものではない。
次に六十一番については、甲第一号証のうち当該氏名欄の記載をみるとその第一字、第二字は「渡部」と読むことができるが、その第三字は形態、運筆ともにずさんで、これがいかなる字であるかを全く解読することができない。従つて同番の署名は地方自治法第七十四条の三第一項第二号の規定により何人であるかを確認し難い署名として無効であるから原告等の主張は理由がない。
第三。
甲第一号証の五十二番の印欄には署名者杉原トラノの印影であることを認めしめるに足りるものがなく、却つて同欄には朱肉の汚点というほかないものの存することが認められる。従つて五十二番に関する原告等の主張は理由がない。
第四、第五、第六、第七。
地方自治法施行令第百条、第九十八条の三、同法施行規則第十一条、第九条の規定は、議会解散請求者署名簿は、一定の様式によつてこれを調製するものとし、有効無効の印、署名年月日、住所、生年月日、氏名、印等の各欄を設けるべきものとしている。それゆえ署名年月日、住所、生年月日等の全然記載のない署名は、特段の事情のない限り、無効であるといわなければならない。その記載の不備な署名は、これによるかしが重大であるかどうかによつてその有効、無効を決するのほかない。
甲第六号証によれば、三百七番の署名年月日欄に「ヽ」なる記号があること、その右方に連続する三百六番、三百五番の同欄には何等の記載がなく、三百四番の同欄には「ヽヽ」の記号があることが明らかである。「ヽ」または「ヽヽ」なる記号は、普通前の記載と同一であるから、これを引用するという趣旨で用いられていることは、ほとんど公知の事実といつてもよい。ところが三百六番、三百五番の署名年月日欄は空白であり、三百四番には「ヽヽ」なる記号があるが、三百七番の「ヽ」なる記号は、そのいずれを引用する趣旨であるかを明らかにすることができないから、三百七番は結局署名年月日の記載がないと同様であるといわなければならない。
甲第八号証によれば、三百九十六番の署名年月日欄に「昭二七、九」と、その右隣三百九十五番の前欄に「昭二七、九、一〇」と、その左隣三百九十七番に「昭和二七、九、一〇」と、それぞれ記載されてあること及び同号証の各署名は日の順序に従つて整然とされていることが認められる。三百九十六番の右九が九月の趣旨であることはよういに推測され、またその爾後の署名年月日の各記載、その他同号証全体の記載からして、同番の署名の日が一〇日であることも、またよういに推測されるから、これを無効とすべきいわれはない。
甲第十三号証によれば、六百八十四番の署名年月日欄の記載中、昭和年の文字のほかは、到底判読することができないから、同番の署名は無効である。
甲第十四号証によれば、八百三十三番の署名年月日欄には何等の記載がないことが明らかであるから、右署名は無効である。
甲第八号証によれば、四百三十九番の生年月日欄に「明治二二」と、その氏名欄に「年藤崎」と、四百四十番の生年月日欄に「七月一日大正六年一月一日」と、その氏名欄に「リノ藤崎ミサオ」と、それぞれ記載されてあることが明らかであるが、それは、右記載自体からして、明治二二年七月一日生藤崎リノ、大正六年一月一日生藤崎ミサオの各署名であつて、四百三十九番の生年月日の「年」の文字がその下段氏名欄に、その月日「七月一日」の文字が左隣四百四十番の生年月日欄に、その名「リノ」の文字が同じく左隣四百四十番の氏名欄に、それぞれはみ出したに過ぎないものであることが、よういに推測される。なるほど、前示施行規則第九条の規定は、署名簿の各記載事項は、その事項欄ごとにこれに該当する一個の事項を記載すべきものとしていることをうかがえるが、右四百三十九番の前示記載、従つて四百四十番の前示記載も施行規則の定める様式に反するものというのほかないが、右のとおり署名を確認することができるのであるから右違反は、その署名を無効としなければならないほど重大なものということはできない。
甲第十四号証によれば、七百七十七番星久子の生年月日欄に「昭和二四、一、二〇」と記載されてあることが明らかであるが、乙第十号証によれば星久子は昭和四年一月二十日生であることが認められる。しかし右昭和二十四年は、署名年月日がたまたま昭和二十七年であつた関係上、不用意の間にこれを誤記したものと推測されるところであるから、右署名を年齢相違のゆえに無効とすべきではない。
甲第十号証によれば、四百七十五番の住所欄には「河沼郡堂島村」と記載あるのみで、大字、字番地の記載のないことが明らかであるが、堂島村の記載によつて一応署名者が同村の選挙人であろうと考えられるわけであり、また大字、字、番地の記載もれのため、署名者の同一性の認識を困難ならしめる事情があるものと認めしめる証左がないのみではなく、その署名者は本件解散請求代表者星野義水であるから、右住所の記載の不備はその署名を無効としなければならないほど重大なものとは考えられない。
甲第十四号証によれば、七百九十九番の住所欄には何等の記載がないことが明らかであるから、右署名は、住所の記載を全然かくものとして無効とすべきである。
従つて第四ないし第七の署名中三百九十六番、四百三十九番、四百四十番、四百七十五番、七百七十七番の各署名を無効とした被告の決定は違法である。
次に甲第四、第十四号証によれば、二百十四番、七百四十八番、七百五十二番、七百六十一番の各有効無効の印欄に各署名者が記載し、またはおしたと思われる文字や字のあることが明らかである。この欄は選挙管理委員会のためのものであることはいうまでもないことであるから、署名者がここに文字を書いたり、印をおしたりするのは、様式に反するものといわなければならない。しかしこのような違式は、署名を全然無効にしなければならないほど重大なかしとは考えられないから、これを理由として右四個の署名を無効とすべきではない。
第八。
地方自治法施行令第百十条、第九十八条、同法施行規則第十一条、第九条の規定は議会解散請求者署名簿の様式について定めてあるが、右法令中署名簿が成規の用紙で調製されるべきことを定めた規定はない。従つて、署名簿用紙に紙がはりつけられても、それが署名簿と一体をなして成規の署名簿の様式を備えている以上は、それもまた署名簿の一部となるわけであり、その上に署名をすれば、成規の署名簿への署名として有効なものといつてよい。
署名簿と別個の紙片に署名簿とかかわりなく署名したものを、その後署名簿上にはりつけた場合、その署名は無効といわなければならないとしても、それと前述のような場合とを同一視できないことは明らかである。ところで甲第十四号証のうち七百三十三番、九百四十三番、九百四十四番、九百四十五番、九百四十六番は、その署名年月日、住所、生年月日、氏名の部分に他の紙片がちよう用されているが、右紙片はいずれも署名簿の各欄のと同長、同大のもので、各欄にあてはまる如くなされており、且つ右紙片と署名簿との間には、各署名者において印またはぼ印をおしてあつて、右紙片は署名簿と一体となつていることが明らかであるから、右各署名は、署名簿用紙にはられて、その一部をなすに至つた紙の上に記載されたものと認める。被告は右署名がいずれも署名簿による署名の収集とは別途になされたものであるから無効であると主張するもののようであるが、右認定をくつがえしてこの事実を認めしめるに足りる証拠がない。従つて右五個の署名はいずれも署名簿の署名であるというべきである。
第九。
百三十二番については、証人渡部勘吉、大竹俔子の証言により同番の署名は渡部勘吉の収集したものであることが認められる。右認定に反する乙第四号証の記載は信用しないし、他に右認定を動かすに足りる証拠がない。
次に(1) 二百五十八番については証人安斎市馬、山口庄作の各証言により
(2) 二百五十九番については証人安斎市馬、山口信子の各証言により
(3) 二百六十一番については証人安斎市馬、山口トヨの各証言により
(4) 二百六十二番については証人安斎市馬、山口節子の各証言により
右四個の署名はいずれも安斎市馬の収集したものであることが認められる。右認定に反する乙第五号証の一ないし三の記載は信用しないし、その他に右認定を左右するに足りる証拠がない。地方自治法施行令第百条、第九十二条第一項の規定によれば議会解散請求代表者は選挙権を有する者に対し請求者署名簿に署名し印をおすことを求めることができることは明らかであり、渡部勘吉、安斎市馬等がいずれも本件議会解散請求の代表者であることは原、被告間に争がないから、以上五個の署名はいずれも適法に収集されたものといわなければならない。
第十。
地方自治法第七十六条第四項、第七十四条第四項の規定によれば、議会解散請求者署名簿に署名すべき選挙権を有する者とは、選挙人名簿確定の日においてこれに記載された者とするのであるから、公職選挙法第二十三条ないし第二十五条の規定に基き確定した選挙人名簿に記載された以上、確定の日以後におけるその者の選挙権の喪失が議会解散請求者署名簿に署名すべき適格に何等の影響を及すものでないと解すべきである。六百七十七番の署名者である湯浅日出子が被告の本件署名審査当時において、基本選挙人名簿に記載された者であることは弁論の全趣旨により認めることができるから、湯浅日出子は本件署名簿に有効に署名し得る適格を有する者である。
第十一。
地方自治法施行令第百条、第九十一条、第九十二条第四項の規定によれば、議会解散請求の署名収集は当該普通地方公共団体の長が議会解散請求代表者に代表者証明書を交付した旨の告示があつた日以後でなければこれをすることができないのであるが、堂島村長が原告等に代表者証明書を交付した旨の告示をした日が昭和二十七年九月八日であることは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。ところで、
(1)(イ) 四百二十七番については証人大竹キミ、渡部丑太郎の各証言により
(ロ) 四百二十九番については証人渡部キヨノの証言、原告渡部勘吉の本人尋問の結果により
いずれもその署名は右告示のあつた日より後の昭和二十七年九月十一日収集されたものであることが認められる。他に右認定を左右するに足りる証拠がない。
(2) 四百七十九番ないし四百八十六番について考えるに、甲第十号証のうち四百七十九番の署名年月日欄の記載をみるに第一字ないし第七字は「昭和二十七年九月」、第九字は「日」と明らかに読めるし、第八字が「メ」で抹消され、その横に併列してある字は「十五」と明らかに読める。してみれば右署名年月日の記載は「昭和二十七年九月十五日」と読むのが相当である。また四百八十番ないし四百八十六番の各欄をみるに、いずれも「,」という記号があることが認められるが、同記号は前番の記載を引用する意味であり、このような署名年月日の記載方法も有効と解すべきものであるから、右八個の署名はいずれも告示があつた日以後である昭和二十七年九月十五日に収集されたものと認めるのが相当である。
(3) 五百八十一番、五百八十二番、五百八十三番については、いずれもその署名が右告示があつた日より後に収集されたものであることを認めしめるに足りる証拠はなく、かえつて甲第十号証によれば、これらの署名は、昭和二十七年九月四日にされたものであることが明らかであるからこの点に関する原告の主張は理由がない。
第十二。
地方自治法施行令第百条、第九十五条の規定によれば、議会解散請求者署名簿に署名し印をおした者が当該署名、印を取り消し得るのは議会解散請求代表者が当該署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出するまでの間に限られることは明白である。しかるに三十番、七十番、七十一番、六百三十番、六百五十九番、六百七十番、六百七十一番、八百七十番、九百三十七番については署名し印をおした者が署名及び印を取り消したことは原、被告間に争がないが、右の者等が右各個の署名及び印の取消の意思表示をしたのは原告等が右各署名及び印のある署名簿を被告に提出した後であることは被告の認めるところである。従つて右取消はいずれもその効力を生ずるに由がないものであることは明らかである。
第十三。
(1)(イ) 四十四番については、証人石井徳次の証言、原告吉田孝平の本人尋問の結果により
(ロ) 八百二十三番については証人鷲山亀継、大竹保の各証言により
その署名がいずれも本人が任意にしたもので、強迫に基きしたものでないことが認められる。乙第三号証を以てしても右(イ)の認定を、証人加藤倉八、加藤国光の各証言を以てしても右(ロ)の認定を動かすに足りないし、その他に右認定をくつがえすに足りる証拠がない。
(2) 七百五十五番についてはその署名が強迫に基くものでないことを認めしめるに足りる証拠がないから、この点に関する原告等の主張は理由がない。
第十四。
四百三十一番については証人大竹タマの証言により本人がその署名をするについて何等の錯誤にも陥つていなかつたことが認められる。乙第六号証の記載を以てしても右認定を動かすに足りないし、その他に右認定をくつがえすに足りる証拠がない。
第十五。
地方自治法第百条、第九十二条第一項によれば、議会解散請求代表者は、解散請求者署名簿に解散請求書又はその写を付して選挙権を有する者に対し、署名し印をおすことを求めなければならないと規定する。このような署名簿に署名押印したものは、特段の反証のない限り、請求書を読み、その要旨を理解し、あるいは、その他の理由により解散請求に賛成して署名押印したものと一応推認するを相当とする。甲第二、第四、第十一各号証によれば第十五に記載した署名者は、いずれも理由書(請求書)の写を附した署名簿に自署したものであることが明らかであるが、乙第二号証の四によれば、六百十五番白川初恵は、署名の意味がわからないまましたものであることが認められる。右事実によれば、白川初恵は、解散の請求をする意欲はもち論、その認識すらなかつたものと認定せざるを得ない。しかるに、議会の解散の請求は選挙権を有する者が合同してする公法上の意思表示であり、署名簿の署名はこれが方式にほかならないから解散の請求をする認識若しくは意欲を有しないでした署名簿の署名は署名した者の取消をまつまでもなく、当然無効のものと解するのが相当である。従つて右の署名は無効であるといわなければならない。
次に、乙第一号証の五によれば、五百九十番高橋ユキは、理由書の内容がわからないで署名押印したものであること、乙第二号証の一、二によれば、七十六番高橋キクノは何が悪いかわからないまま、二百七番安西伊之吉は理由書をみたがわからないまま、それぞれ署名押印したものであることが認められる。ところが、署名簿に請求書を付せしめるのは、よういに解散請求の理由を知らしめる便宜のために過ぎないと解される。それゆえ、その理由を知らなくとも、あるいは、これと全く異る理由によるものであつても、いやしくも解散を請求する意欲若しくは認識のもとに署名されたものである以上、これを無効とすべきいわれはない。被告の立証によつては、右三名の署名者が解散請求の認識をもたないで署名したものと認めしめるに足りないから、右署名を無効とした被告の決定は違法である。
次に乙第二号証の三によれば、五百九十七番兼子ウイ子は被告の署名審査に際し内容を知らないまま署名押印した旨を供述していることが認められる。しかしその不知の内容が単に署名簿に付された理由書に関するものであるとも、更に進んで前示署名簿に署名することの有する意味についてであるとも、そのいずれとも解することができるのであるから、右の供述のみを以てしては前段説示のような推定をくつがえし、被告の主張事実を首肯せしめるに足りる証拠とはなしがたい。従つて右署名を無効とした被告の決定は違法である。
第十六。
二百七十番の署名が無効であることは前示(一)において認定したから、原告の第十六の主張については判断を省略する。
以上説明のとおり被告の前示決定のうち、別表甲第二記載の八十二名に関する部分は違法である。従つて被告の前示決定のうち別表甲第一記載の百二名に関する部分の取消を求める原告の本訴請求中別表甲第二記載の八十一名に関する部分は正当であるから、これを認容すべきものとし、その余は失当であるからこれを棄却すべきものとする。
次に本件参加申出について考える。普通地方公共団体の議会は議決の機関として当該普通地方公共団体を構成する部分に過ぎないものであるから、行政法上の法律関係の主体となることができないものであり、従つてまた裁判上自己の名において訴え、又は訴えられる機能を有しないものというべきである。ただ、地方自治法の個々の規定が議会を独立の法主体として取り扱うべきものと定めるとき、若しくは行政事件訴訟特例法第三条の規定により処分行政庁として訴えられるときは、これ等の関係に限り議会が原告若しくは被告となり得ることがあるに止まるのであるところ地方自治法は普通地方公共団体の議会の解散の請求手続(各段階における異議、訴願、訴訟手続を含む)において議会が独立の法主体であるとは定めていない。然るに、本件参加の申出が民事訴訟法第七十一条の規定による当事者参加としてのものであることは参加人の参加の理由とする主張自体に徴して明白である。そうすると、当事者参加人堂島村議会は裁判上自己の名において訴え得る権能を有しないものであるから本件参加の申出は不適法として却下すべきものである。
よつて、訴訟費用のうち原告と被告との間に生じた部分につき、民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用し、本件参加の申出により生じた部分につき同法第九十八条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 間中彦次)
(別紙省略)